ミリオンダラー・ベイビー(1)

ブラッド・ワーク」からクリント・イーストウッドのカメラマンになったトム・スターン(Tom Stern)は、「ミスティック・リバー」同様、この作品でも、陰影の美しいカメラワークを披露します。どこか彼のカメラワークは、ただ流麗なだけではない、生々しさを感じさせることがあり、イーストウッドのここ数作品に、新たな性格を付与しているとも言えそうな気がします。

IMDbhttp://www.imdb.com/)によると、トム・スターンはサミュエル・フラーの「ホワイト・ドッグ」などを経て、「センチメンタル・アドベンチャー」あたりでイーストウッドの参加に初めて参加したようですが、そのころはまだ現場スタッフの一人という形だったようです。きちんと調べているわけではないのでわかりませんが、撮影に深く関わるのは照明の仕事を請け負うようになってからではないかと想像します。照明で彼が最初にクレジットされるのは、IMDbに従えば「バード」から。以後「ルーキー」「許されざる者」「パーフェクトワールド」「スペースカウボーイ」と照明を担当(チーフだったり、コンサルタントだったりはしますが)し、イーストウッド以外でも「アメリカン・ビューティ」や「ロード・トゥ・パーディション」などを手がけています。そして、彼が撮影監督になったあとの作品と引き比べると、照明スタッフとしてのキャリアが、彼のカメラワークに生かされているのではないかとも、想像されるのです。どれも陰影の素晴らしく美しい映画でしたしね。

ボクシングジムのなかや、病院の廊下、イーストウッドの家や、ジムの外の夕ぐれの街角や、無数の影の中で、イーストウッドヒラリー・スワンクの眼がささやかな光を帯びて、しかし強くそこにあるのを見ると、それだけで映画だと感じて、心が震えます。実際、こうした光や影を見るために、私は映画を見ているところがあります。それだけではないのですが、そういう部分も、確かにあるのです。

イーストウッドのカメラマンだと、ジャック・N・グリーン(「バード」「許されざる者」)もブルース・サーティーズ(「ペイルライダー」「恐怖のメロディ」)もとても好きです。というか、この2人以外に誰かいましたっけ?