[comic][music] MOONLIGHT MILE / PREFUSE 73

BGM:PREFUSE 73「Vocal Studies + Uprock Narratives」

Vocal Studies + Uprock Narratives (WARPCD83)

Vocal Studies + Uprock Narratives (WARPCD83)

気持ち良いです。お寿司で例えると、ちらし寿司にもならないくらい細かく砕かれたあとつなぎ合わせた、ミックスのつみれ状態で、しかし出来上がったものはスパイシーでポップなもので、単一の味わいではなく…って、食べ物に例えるのが間違っているのでしょうね。

MOONLIGHT MILE」というコミックを読みました。宇宙飛行士を目指す青年・吾郎が、その夢を果たし、月の新エネルギーの開発のため、基地の建築に携わるのですが、彼の前には事故、利権、政治、陰謀といった無数の現実的な問題が立ちふさがっている、という話です。作者は新しい東西冷戦(宇宙開発のイニシアティブをアメリカと中国が奪い合う)をフィクショナルに構築し、物語の背景としています(しかし、完全に絵空事でもないところが上手いところです)。群像劇で、敢えて言えば吾郎が主人公ですが、その親友でアメリカ軍の一員として宇宙を目指す通称ロストマンや、数多くの宇宙開発に携わる人々の物語が交錯し、その中で人々は助け合うこともあれば、逆に決定的に対立してしまうこともある、といった形で、複雑な人間関係を構築しています。

このコミックの面白さは、「島耕作」シリーズの真逆のところにあると思います。現実のロマンチックな側面ではなく、あくまでロマンの現実的な側面に拘ったところですね。現実に適切に対処していけば、苦労や苦悩を味わったとしても、それなりによい人生が見えてくるというホワイトカラー的な島耕作の幻想を、おそらく「MOONLIGHT MILE」の作者は嫌っているのだと思います。夢は必要だし、ロマンは必要だし、実際に存在もするが、しかしその周囲には無数の現実があり、その対処はただただ現実でしかない、ということですね。決して、新しい物語がここにあるとは思いません。むしろ「ゴルゴ13」などの世界を思い出します。けれど、これほど複雑に、長編のコミックとして、現実の諸問題に通じる課題をフィクショナルに構築して見せたコミックはすごく珍しいと思います。とても面白く読んでいるのでした。

MOONLIGHT MILE 1 (ビッグコミックス)

MOONLIGHT MILE 1 (ビッグコミックス)