Lali Puna / 松本次郎「熱帯のシトロン」

BGM : Lali Puna「Scary World Theory」

Scary World Theory

Scary World Theory

ドイツのエレクトロニカ系のレーベルからCDを出している、Lali Punaが今日のBGM。メロウで美しいメロディに、淡いのだけど頑固そうな(笑・という形容が正しいかどうか微妙だけど)女性ボーカルが浮遊してます。T1とかT5とか、よいなぁ。ふわふわ〜。このアルバムしか手元にないのですが、調べてみると他のアルバムも、ジャケ買いしたくなるおしゃれさで、そそられます。

「フリージア」で気に入った松本次郎の昔の作品を、遡りながら読んでいます。「熱帯のシトロン」は、時期としては「ウエンディ」のあと「未開の惑星」の前に当たる作品で、実際並べて読んでみると、橋渡し的なものを感じます。「ウエンディ」と「熱帯のシトロン」に通じるのは、生の実感を無くした若者が、エロでグロに混乱したファンタスティックな世界で、信じたい存在、愛したい存在に巡り会い、それを必死に求めることで自分を取り戻していく、といった、ストレートな青春を描いています。ですから物語は、混乱した世界が愛によって乗り越えられるか否か、ということが問われていきます。混乱した世界は、一つの舞台装置なわけです。松本次郎の画力で、細やかに描き出された世界は、とても魅力的です。

熱帯のシトロン―Psychedelic witch story (Vol.1) (F×COMICS)

熱帯のシトロン―Psychedelic witch story (Vol.1) (F×COMICS)

しかし「未開の惑星」を経て「フリージア」に至る流れでは、愛し合えないが隣り合う「他者」の問題が盛り込まれていくことで、世界の混乱が、背景ではなく全面に押し出されてきているのではないかと思います。「ウエンディ」や「熱帯のシトロン」のように、一組の男女が互いを見出し、向かい合い、世界の混乱を乗り越えて新しい一歩を踏み出すことは、とても美しいことかもしれませんが、それは魅力的に混乱した世界を背景に押しとどめて、斬り捨てることにも通じかねないのかもしれません。しかし、現実の世界の混乱は、無くなってはいないわけです。そこで「未開の惑星」「フリージア」では、一組の男女=2人の物語から、3名、または4名と、理解し合わない他者へと広がっていく物語が構築されていきます。松本次郎の描く主人公たちは、一貫してそれぞれ生真面目と言っていいくらいの切実さで自分なりの生き方を模索しているのですけれど、他者の問題が絶えずクローズアップされる「未開の惑星」や「フリージア」では、まじめに世界に向かうからこそ当たり前に解決し得ない断絶がいつもそこにあってしまうのだと思うのでした。しかし、混乱した世界は確かにあるわけだから、よりその方がリアルなのだと思います。