ロンドン同時多発テロ / HUNTER×HUNTER

ロンドンの同時多発テロは、更に中東の情勢を悪い方向へ導くのではないか、対米追従のブレア政権の支持率がまたしても上昇を始めたと聞き、国際協調ラインがまたしても挫かれ、対テロ戦争の強引な文脈が強まるのではないかと想像していたのですけれど、田中宇さんのHPにまったく逆の内容の記事が掲載されていました。

イギリスを対米追従していると安易に考えるのではなくて、アメリカの単独覇権主義に対するイギリスの別の戦略(覇権の多極化)を、ブレア首相の今回のテロ直後の一連の発言から見て取る、という記事です。この見方は、非常に面白いと思います。しかし一方で、完全に納得できるわけでもありません。やはり、流通する先進国社会からのメディアの情報は、様々な留保がありながら、イラクの人々とロンドンの人々の命を同じ重さとして捉え、踏まえて、報道しているようには見えないです。確かに、報道しやすさというのはあると思います。情報がより多い事件=いわゆる先進国で起きた事件が世界を席巻してしまうことで、命がまるで軽く扱われている人々がいる=いわゆる発展途上国(とても欺瞞に満ちた表現だと思う)の人々がいることに、メディア(どうであれ、情報を売り買いするビジネスには変わりない)は本質的に鋭敏になれないのかもしれません。

私としては、いまイラクで、中東で起こっていること、そこで実際に多くの市民が死んでしまっていることや、これからイギリスで起こるだろう法改悪(結果的に、イスラム系の人々への人種差別的な)なども同時に考えていかないといけないと思うのですけれど(あ、田中氏がそれを無視しているとは思っていません。ただ田中氏のような、国際情勢を分析する俯瞰的な視点はとても大事で、読み手としてもそれが望ましいのです)、そのためには、少ない情報を拾いながら、バランスを自分の中で取っていくことが必要で、しかしそうした作業を続けているうちに、メディアにのって流れてくるものはすべて茶番劇といった、間違った自己防衛にも走りがちになるものだから、難しいと心から思うのでした。

ところで、冨樫義博の「HUNTER×HUNTER」の22巻を読んだのですけれど、現在も連載が続いているNGL編で冨樫義博としては、いま世界のどこかで起こっている戦争、という問題を、かなりきちんと「想像している」のではないか、と思うのですね。戦争を、たとえば「ガンダム」シリーズに象徴されるような、ロマンチシズムの文脈で物語ろうとはしていないですし、「エヴァンゲリオン」のような内面の問題にもしていないと思います。ただリアルに想像しようとしている。「想像している」というと、何か軽い感じがするかもしれませんが、そうではなくて、むしろ、メディアからは世界の見えてこないリアルさを、何かフィクションに託して想像しようとすることのなかには、一定の誠実さがあると私は思っています。そして、少ない情報の合間に隠れてしまう事実よりも、ずっと重要な想像があり得るとも思っています。

HUNTER X HUNTER22 (ジャンプコミックス)

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