Patrik Torsson / 宇宙戦争

BGM : Patrik Torsson「statements of facts」

日本版のCDだったので、解説が出てました。1975年生まれ、スウェーデンの方だそうです。アコースティック楽器(ピアノやギター)を生かしたエレクトロニックなインストアルバムで人気が出た人のようなのですが、今作は、ボーカルアルバム!という感じです。ただ、そのボーカルが、何とも不安定というか、いつも緩く揺らいでいる感じでよいのです。背景の音は、やはりエレクトロニックな感触に、生音が絡むようになっていて、ボーカルと呼応するような、不安定な揺らぎがあります。曲によっては、少し、ロバート・ワイアットっぽいかもしれません。

さて「宇宙戦争」です。

スティーヴン・スピルバーグの作品を見るたびに、この人は本質的に、対人恐怖症的というか、何かひどくおそれを抱えて生きているのだろうなぁ、越えられない断絶を耐えず見つめているのだろうなぁ、と感じます。たとえば「E.T」ですけれど、人間とE.Tは確かに仲良くなるのです。しかし、E.Tを追いかけてくるヘルメットの集団の、あの不気味さは何なのでしょう?初期に戻ると「激突」ですね。それから「ジョーズ」。どこかで、スピルバーグの世界は、そうした理解不能な存在が横たわっている気がします。「シンドラーのリスト」でいえば、一見非常にヒューマニズムの話のようですけれど、突き詰めれば、命を金で買う話をしています。金と命が等価になる(あるいは命は金に換えられないならば、それが等価になる場所は、ひたすら死だけが満ちているとも言えるのですけれど)ような場所をじっと見続ける、それがスピルバーグの不気味さとして一方にあります。しかし、「シンドラーのリスト」では、とても不気味な、とってつけたようなヒューマニズムのラストがついてしまいます。あのラストへの嫌悪感が、この映画を不当におとしめている気がいつもします。

しかし、ラストが無理矢理なのも、スピルバーグらしいと言えそうです。爆発して終わり、全員死んで終わり、宇宙に、あるいは祖国に帰って終わり…何か、ひどく実も蓋もない終わり方をたくさん見た気がします。そこには、極端な分裂がある気がします。非人間的な、恐ろしく深い断絶の連続と、それを無理矢理、地球に引き戻すための強引な変換と。

と、こうして書いていると、ほとんど「宇宙戦争」のことを書き終えたように感じます。死の光線をくぐり抜けてトム・クルーズが逃げまどう長回しのシーンは、本当に素晴らしいと思います。前半から、惜しげもなく、失笑すらされかねない造形の宇宙人の兵器が現れるのも素晴らしいと思う。その強引さが、理解不能な敵と、ただ殺されるだけの人間との埋めようのない溝を示しているのです。

以下、ネタばれです。

ラストは、やはりとんでもないわけですけれど、私としては、あれは、死後の世界なのではないかと感じています。家族だけが誰も死なずに生き残るなんて、やっぱり変ですから。特に長男は、生きているはず無いと思うのですよね。