Emilie Simon / 深夜プラス1

「深夜プラス1」というと、日仏学院に向かう途中の、SF小説とかが多数置かれた不思議な品揃えの本屋のことで、私は深夜営業をやっている本屋なのかなぁと思っていたのですが(無知)、有名なサスペンスアクション小説(ジャンル的な呼称はこれでオッケーなのでしょうか?)のタイトルであることをごく最近知ったのでした。そして、たまたま見た「交渉人 真下正義」のなかでも、この小説の話が出てきたものですから、気になって読んでみたのです。

深夜プラス1 (講談社ルビー・ブックス)

深夜プラス1 (講談社ルビー・ブックス)

名作、といわれるだけあって、いっきに読み通しました。会社乗っ取りを回避するため、株主総会に向かわなければならない会社重役を、警察と殺し屋の両方に追われながら、フランスからリヒテンシュタインまで届けようとする逃がし屋の物語です。ひとことで言えば、ハードボイルドの世界なのですけれど、面白いのは、主人公の二面性というか、自己批判的な視点なのです。手の中で跳ね上がる凶暴なモーゼル銃を振るって、敵を屠る、戦時中のレジスタンスの英雄だった男ルイス・ケインは、自分がすでにその時代から遠く離れ、英雄だったころのように振る舞おうとしてもどこかでずれてしまっている(結果的には上手くやり抜けたとしても)、そのことをよく知っていて、それでいてなお、戦場を欲望もするし、英雄だった自分のように行動しようともする、そういうどこか分裂した内面を持っているのですね。そして、この小説は主人公の一人語りで進みますので、それはそのまま小説の中の分裂にもなっています。アル中だが、ヨーロッパで三番手のガンマン、という相棒の存在も、そうした分裂の一部です。ケインは、ことあるごとに、ガンマンを分析します。それは、彼自身の分析と非常によく似ています。戦場を欲しながら、そこにすでにふさわしくない、という矛盾がたえずそこでは出てきます。しかし、彼らは、それでも戦場で生きていくことを選び、最良の自分だったらこうするだろうと考えることをし、実際にやり抜いても見せるのです。しかし、それはたえず、反対の可能性に晒された綱渡りで、それを露呈しながら進むところに、この小説の面白さがあるのだと思うのでした。

BGM : Emilie SimonEmilie Simon

Emilie Simon

Emilie Simon

日本版も出ているようですけれど、ジャケットがこちらしかなかったので(2005/07/13現在)。不気味可愛いガールズポップ若干音響ノイズという感じです。こういう種類の気持ち悪さと可愛さの中間みたいなところに、上手にとどまれる日本人のミュージシャンがたくさん出てくると嬉しいのですけれど。あ、hi-posiのもりばやしみほさんとか、そういう意味ではばっちりですね。とても好きです。「かなしいことなんかじゃない」とか、たくさんたくさん聞き返したアルバムです。

かなしいことなんかじゃない

かなしいことなんかじゃない