「宇宙戦争」(2) / John Coltrane「Crescent」

BGM : John Coltrane「Crescent」

Crescent

Crescent

比較的苦手なアルバムです。何が苦手って、流れていってしまうのです。これは単に、私の耳が鍛えられていない、未熟さ故なのか、そうでないのか、いまいちわかりません。

カレーライスの残りを食べながら、浅田彰田中康夫「続・憂国呆談」web版の最新号を読んでいたところ、「宇宙戦争」(と「スターウォーズ」)を浅田氏が見た、という話がありました。

なお、前回「宇宙戦争」について書いたのは、確か7/12の日記でした

以下、全般的にネタばれです。

そこで「宇宙戦争」を「9.11の影を色濃く帯びてて」と浅田氏は言うのですけれど、それはまったくその通りで、唐突に空=宇宙から理解不能な存在が降ってきて、大虐殺を始めるという悪夢は、まさしく9.11の拡大版なんですよね。ただし、少し前の映画にも目配せをすると、「インディペンデンス・デイ」や「メン・イン・ブラック」みたいな映画が一番わかりやすいのですが、そうした恐怖心は、9.11以前にもあったと言えます。もっと遡れば、明確に理解不能な異分子としての侵略者が出てきた映画、というと、たとえばジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」などもあります。そして、「ゾンビ」がベトナム戦争の戦場をアメリカの内部に(内臓をはみだたせた累々たる死体の逆襲)という恐怖だったのと同様に、「メン・イン・ブラック」や「インディペンデンス・デイ」は、湾岸戦争の戦場の恐怖をアメリカの内部に導入する映画ではあって、自分が他者にしていることを、圧倒的な他者にやり返される、という悪夢だったのではないかと想像します。リアルには報道されないがゆえに、抑圧されたイラクのリアルが、イラクからアメリカへ地下を伝わってやってきて、形を変えアメリカ人を食い荒らす幻想になったわけです。そして、そういう幻想の一つが9.11という形で、ついに現実になった。「宇宙戦争」は、だから徹底的に新しい技術を生かした映像を駆使しながら、実は新しくないのです。そして、新しくないから、安易に物語性重視には行けないのだと思います。現実がすでにそこにある。ですから、ただただ殺伐とするわけです。

そういえば、ティム・バートンの「マーズ・アタック!」という映画もありましたね。物語的には、終わらせ方含めて、「宇宙戦争」と通じる部分がたくさんあったと思います。ただしティム・バートンの場合は、火星人は侵略者のカリカチュアとしてあって、その分(誰に似ているかはともかく…実は誰もかれもに似ているのですけれど)「理解できる」存在だったのに対して、「宇宙戦争」の圧倒的な他者ぶりは恐ろしいばかりです。そして、その他者が、殺伐とした新しくない現実として必要だったのだと思います。

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浅田氏は「普通だったら、主人公をはじめ人間たちが最初の敗北を乗り越えて反撃するわけだけど、そうじゃない」、それどころか身内を守るために、地下抵抗運動をしようとするティム・ロビンス(まあ、狂気的なところもあったから、彼に地下運動が出来るとは思えないのですけれど)を殺してしまうところに注目しています。反撃が出来ない圧倒的な無力さと、身内同士の殺し合い、というのは、このシーンだけではなく、映画全般に確認できます。まず、車を盗み出して家族だけ連れて逃げ出すシーン、友人を目の前で殺されるところからはじまり、暴徒に車を奪われるシーンでも無力、フェリーでは知り合いの母娘を助けられず、結局自分と息子・娘だけで逃げ、その息子すらトム・クルーズは守り抜くことが出来ない、息子自身の意志もあったとはいえ、クルーズの元を去ってしまうのです。これだけ徹底して、誰一人守ることの出来ないハリウッド映画の主人公というのはかなり異質ではないでしょうか。主人公だけではありません。守れない、むしろ殺し合ってしまうのは、共に逃げまどう無数の人々も同様です。徹底した無力さ。しかしそれもまた、現実の反映といえるのかもしれません。爆撃で、それからそれ以後も続くおそらくは理不尽としか感じられないだろう無数の苦痛の中で、打つ手のない人々が、イラクに、アフガニスタンに、やはり現実に存在しているわけです。いまのアメリカにはいないかもしれません。だからスピルバーグは、その現実を、幻想を通してアメリカの内部へと持ち込むのです。特にフェリーのシーンの、難民的な人々の密集には、アメリカが異国のものとして遠ざけていた何かが噴出しているように思います。しかも、9.11が起こった以上、それはもう、単なる恐怖の幻想ではないのかもしれません。いずれ起こりうるかもしれないことなわけです。

だとしたら、「宇宙戦争」に9.11が影を落とすのではなく、「宇宙戦争」に代表されるアメリカの恐怖心が9.11に影を落としていたのかもしれませんね。

そういえばアルフレッド・ヒッチコックの「鳥」という映画もありましたね。

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