Etron Fou Leloublan / 0:34

本日のBGMはEtron Fou Leloublanの1st「Batelages」。良いです。ああ、脱力大道芸ユーモア。でも、こういうのって、緩くなりそうなところをどう緩くしないかに、結局刺激的な部分は帰属していて、そのためには知性とセンスが問われもする。大道芸という言葉を使うときに、それを洗練と同じ意味で使わないといけないのだと思います。

ああ、楽しい。

エトロン・フー・ルルーブラン、どうやらamazonにちゃんと登録されていないらしく、はまぞうの検索には引っかかりませんでした。しかたがないので、Locus Solusのエトロン・フー・ルルーブランのページにリンクを貼っておきます。

クリストファー・スミス監督、「ラン・ローラ・ラン」のフランカ・ポテンテが主演したイギリスのホラー映画「0:34」を見てきました。

終電が行ってしまったあと、地下鉄の構内に閉じ込められ出られなくなったフランカ・ポテンテが殺人鬼に追い回される、という比較的シンプルな映画です。自分の足元、地下に、有機的に広がる地下鉄も下水道もごっちゃになった不気味な広がりがあり、それを私たちは把握していないが、そこに(意識的にしろ無意識的にしろ)追いやったものがいずれ出できて復讐するかもしれない、という恐怖を、生理を直撃するグロテスクさと迷いのない残酷さ、理由のなさで描いています。そうした映画なので、シンプルな構成であることは、とても効果的だったと思います。

以下、ネタばれです。

「ファントム・オブ・ジ・オペラ」の地下鉄版、というのが初期設定かもしれません。殺人鬼は、人体実験をされたのか、皮膚がただれ崩れた、半裸の男で、子供のころから地下の秘密の病院のような設備で生まれ、そこでずっと生きてきた、という設定のようなのです。彼が心惹かれるのはオペラ歌手ではなく、ねずみたちと殺人です。それがオペラ座と地下鉄の質的な差異なのでしょう、音楽の替わりに叫び声を彼は望んでいます。彼は地下道で人々を狩る、殺人を、無上の喜びとしているのです(殺したあとは、食用にするのか、ねずみの餌にするのか、その両方なのかはわかりませんが…)。しかし、これらはすべて推測に過ぎません。殺人鬼の背景はほとんど語られないのです。ただ甲高い奇声をあげながら追いかけてくる不気味な存在が、地下道を縦横無尽に走り回っていて、彼の庭に迷い込んだらもう殺されるほかない、という恐怖だけが前面に押し出されます。「悪魔のいけにえ」地下鉄版を目指した、とも言えそうです。

実際のロンドンの地下鉄が本当にそうなのかどうかはわかりませんが(単に想像上の事なきもするのです)、地下鉄の側道が下水とつながり迷路のようになっているという設定で、どこにも行き着けない不気味な広がりを上手く出せていると思います。側道が縦横に複数走っている場所に殺人鬼の影がよぎると、合わせ鏡の中をおぼろに殺人鬼がよぎるような怖さもあります。それでいてすぐそばまで来ると、生理的な嫌悪を引き起こす不気味な風貌で、刃物を使って、いたぶりながら相手を殺し、動物のように内臓を切り取ってねずみに与える、生々しい血みどろの殺人鬼でもあります。

ポテンテが鼻持ちのならない、金さえ出せば貧乏人は私の言うことを聞くだろう、というタイプの人間であることも作品の面白さです。彼女は、明らかに攻撃される側ではあるのですが、どこか同情できないのでした。地下道と地上は、階級の境目と考えられるかもしれませんね。富裕層のポテンテは、地下で地上のルールを使って人々に言うことを聞かせようとするのですが、すべて失敗し、逆襲されてしまうのです。