デヴィッド・コープ「エコーズ」/ Scannerfunk「Wave Of Light By Wave Of Light」

BGM : Scannerfunk「Wave Of Light By Wave Of Light」

Man Or Monkey

Man Or Monkey

昨日に続けてScannerです。FUNKとついていても、踊ることが挫かれ、一種の焦燥感というか、歪んだ内面のようなものが前面に出ることにはかわりありません。

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ケヴィン・ベーコン主演の「エコーズ」を見てきました。「宇宙戦争」「スパイダーマン」の脚本家であり、「シークレット・ウィンドウ」の監督・脚本でもあるデヴィッド・コープが、リチャード・マシスンの有名なホラー「渦巻く谺」を原作に作り上げた作品です。

義理の姉にかけられた催眠術がきっかけとなり、目に見えぬものを見、感じるようになってしまった消防士のケヴィン・ベーコンは、妻と幼い子と3人で暮らす借家のなかで、少女が殺される幻影を見ます。少女は家にいて何かを訴えかけようとしている。しかし、(強い霊能力の持ち主である息子と違い)、ケヴィン・ベーコンには彼女の望みがなかなかわかりません。姿を現さない彼女ともう一度会うために、仕事も休み、次第に精神を病んでいくかのように見えるベーコンは…

以下、「宇宙戦争」「シークレット・ウィンドウ」含めネタばれです。

ようやくめぐり合った彼女の意思が、自分を探してほしいということだと思い当たります。そして、端正な、穏やかな、アメリカの小さな家庭の庭、床、地下室をどんどん破壊していきます。

肉体派です。霊能力といっても、ここに死体がある、とすぐに見つけられない。ドリルで、つるはしで、そこかしこを破壊せずにはいられないのです。あっという間に、家はぼろぼろの穴だらけになります。それは、物語上は、いささか徒労的なものです。男が精神を病んでいるだけ、という可能性を留保するにしても、あからさま過ぎて、物語としては効果を失っています。しかし、それは物語のことに過ぎず、むしろ、風景としては、この土が掘り返され、破壊されたアメリカの一家庭こそが、この映画そのものの風景だといえるわけです。映画のラスト、少年が耳にする、無数の、世界にこだまする亡霊の声は、この世界の端正な表面の下に、無数の死が埋まっていることを暗示しています。ベーコンが掘り起こしていたのは、したがって少女の死体だけではなく、アメリカの真の風景だったわけです。

こうまとめてしまうと、簡単に整理しすぎている、とは思います。しかし、一方でデヴィッド・リンチ的な、アメリカの一皮向いた裏側の、血と霊に彩られた美しく不定形な世界のイメージがあり、その有効性に対して、こうした、その裏側へと直接的に繋げてしまおうという、無骨だけどリアルな手段が、アメリカ映画の中にあってもいいように感じます。

宇宙戦争」では、スピルバーグは地面の底から、巨大な殺戮マシーンを登場させますが、その登場のさせ方は実に身も蓋もないものでした。隠したりしないのです。そこに隠微な豊かさなど与えません。すべて表面に掘り起こし、明らかにしてしまおう、というあっけなさゆえに、映画のごく冒頭から、殺人マシーンはそこに現れるのです。もちろん911以降、ということも言えるのだと思います。

デヴィッド・コープ監督作、という意味では「シークレット・ウィンドウ」も、家の中に埋まっているものをめぐる映画でした。そして、やはり謎解きも、まったくスマートではなく、不器用になされるのでした。そして実際の出来事にたどり着いてみると、すべてが(無意識とはいえ)自作自演の、身も蓋もない(よくある)結末となるわけです。その身も蓋もない風景が、コープの題材だったのだと思います。

これは、ビル・パクストンの「フレイルティ−妄執−」やサム・ライミの「ギフト」などにも通じる作品かもしれません。小さな、普通のアメリカの家庭の、裏側に、不気味なものへ通じる穴が、身も蓋もなく穴が開いている、それも無数に開いている、というイメージです。正直なところ、ライミなどと比べると演出力はだいぶ弱いですけれど、ただ、アメリカ映画の、インディペンデントで地味に作られている映画たちの、ある種の健全な共通する精神性を、見出せるとは思うのです。

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