藤田敏八「新宿アウトロー ぶっとばせ」/ IANNIS XENAKIS(連日)

BGM : Orchestre Philharmonique du Luxembourg - Arturo Tamayo「IANNIS XENAKIS orchestral works - vol Ⅱ」

Xenakis: Orchestral Works Vol1

Xenakis: Orchestral Works Vol1

シニカルであることよりも、怒りを抱えることのほうが、ずっとまともな感情であると感じていて、たとえば「新宿アウトロー ぶっとばせ」(藤田敏八監督、渡哲也、原田芳雄梶芽衣子沖雅也成田三樹夫)とかを見ると、凄く腑に落ちるというか、誰もが怒りを抱えていることにとても憧憬を覚えるのでした。時代性を強く感じます。1970年の映画です。

マリファナをめぐる三つ巴の闘いです。渡哲也は、梶芽衣子のむかしの恋人で、通り名が「死神」という凄腕の男。出所したばかりの渡を迎えに行き、酒を飲み明かして仲間にするのが原田芳雄。原田は、やくざの一味に3000万円相当のマリファナを奪われており、それを取り戻すために渡の力を必要としたのです。そのマリファナ沖雅也率いる暴走族の一団から仕入れたものでした。金の支払いを求める暴走族、金を取り戻そうとする原田&渡、上前をはねたやくざの一味とその凄腕用心棒「さそり」こと成田三樹夫。彼らのその対立関係を、藤田敏八は向かい合う人間たちの視線劇(相手の視線を盗み、倒す、撃ち殺す)として、とても聡明に構築しているのですが、と同時に、敵であると同時に何かを共有しているかのようでもあります。

以下、ネタばれです。

実際、渡と成田は、以前は仲間同士だったわけですし、暴走族の一味と渡&原田も、最後は協力し合います。敵のアジトをそれぞれが熟知しており、あっという間に敵の膝元にもぐりこんで、殺し合いや殴り合いが始まります。距離をさぐり、向きあう、立場の異なる人間たちの対立を描いた映画ではなく、アウトロー同士の混戦なのです。

彼らは、アウトローらしい怒りを抱えて生きています。アメリカン・ニューシネマです。バイクをジープで轢き飛ばす、よく撃ち、よく殺す。しかし日本の街中の話です。いろいろ無理はあるのですけれど、とはいえアクション映画の本質とはそもそもファンタジーなのです。日本の街中で起こる銃撃戦を、過剰に描かず、ありのままで描いていたら、アクション映画にはなりません。ただし、それはリアルさを放棄するということでもないのです。むしろ、視線や銃口の向け合いの中に、アウトロー同士の対立が生まれ、そこに怒りが(冷静であれ、煮えたぎっているのであれ)生まれ、時代的な熱(ある種のリアルな反骨心や苛立ち)が生まれると思うのです。憧憬を禁じえません。

たとえば、成田三樹夫が渡哲也とビルの屋上で打ち合うシーン、渡が成田の雇い主であるやくざの親分を盾にしても、確信犯としてその親分こそを射殺する成田は、成田を道具としてあっけなく見捨てようとした親分を許さない、その誰であれ平然と裏切るアウトローとしての強さに、冷たい熱がありますし、また同様に、仲間となったとしても、どの体制にも属さず、手探りで(操縦の仕方のわからないヘリコプターでどこへでも去っていくように)、危うい生を生きていこうとする渡や原田、協力はしても馴れ合うことは無い沖ら暴走族…彼らはみな、隷属しないアウトローであり、この社会に対しての反骨心、怒りを確かに抱いているのです。

梶芽衣子は原田のバーで働くママであり、渡哲也と原田芳雄と一種の三角関係になっているのですが、面白いのは、原田がインポテンツであり、愛しながらも一度も梶芽衣子に告白できていなかった、無償の愛をささげていたということです。渡と梶も、映画の最後まで、男と女として復縁したとかどうかわかりません。嫉妬しながら渡と梶の絡み合う場面を、原田が夢想するだけです。男女関係が、奇妙な距離を伴うところに、藤田敏八らしさを感じます。しかし、逆に距離を伴いながら(この映画の場合、最終的な関係が)曖昧になることで、梶は強く美化されます。渡と原田の関係は、梶がほとんど無意味に成田に殺されることで、同じ女を追悼するという絆で決定的に結ばれるように見えるからです。死とも生ともつかない、揺れるヘリコプターでの、渡と原田のこの世界からの脱却は、強いストイシズムを感じます。「冒険者たち」のリノ・バンチュラとアラン・ドロンとかも思い出します。青春です。

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藤田敏八監督の「修羅雪姫」、恥ずかしながら2作とも見ていません。めちゃくちゃ見たくなってきてしまいました。それ以外にも藤田敏八監督の作品は、見落としが多いのですよね。まったく。なっちゃいませんね。

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