MOONLIGHT MILE / BROTHER ALI

BGM : BROTHER ALI「SHADOWS ON THE SUN」

Shadows of the Sun

Shadows of the Sun

気合いだー、というかけ声は、私には今ひとつ響かないけれど、先天性色素欠乏症(アルビノ)として生まれ(そのために様々な労苦を重ねたと思われる)、イスラム教を信仰するBROTHER ALIのMCは、なかなかに響くのです。

太田垣康男の「MOONLIGHT MILE」の10巻と11巻を購入、話をけっこう忘れていたので全巻を読み直してみました。このマンガは、やはり男性的なマッチョな欲望に支えられているが故に、健康さを維持できる(そこの本質にある、マザコン的な心性も含め)ところがあって、私は、あまりそこに組みしたくないって気持ちがあるため、ときどき胃がもたれるような感覚を読みながら感じるのですけれど、それでも読めてしまうのは、21世紀は宇宙というフロンティアへ向かう夢の世紀である、というロマンチックな物語と、21世紀も20世紀同様に戦争とくだらない権力争いの世界であり、そこでろくでもないことが起こるという(やはり月並みではあるが、それなりに説得力のある)物語を、上手に織り交ぜて、大河的な月面開発の物語を構築していく構成力に依るのだと思います。

MOONLIGHT MILE 11 (ビッグコミックス)

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そして前者の健康な物語が、後者の物語の文脈の中で挫けないことを描いていく。いや、後者の物語の中に取り込まれ、汚い作業に手を染めるのであれ、月の世界に向かう人間たちのすべてを、クライマーとして、行為の良い悪いの判断とは別に肯定するところがいいのかな。例えテロリストであれ、月という未開の最前線に、命を賭け、強い意志を持ってきた存在を肯定する。それは、正しい態度だとは思わないし、ときによっては危険だと思う。けれど、まあ、好もしい態度だと(全部ではなくとも)思えるのです。

あ、それで思い出した。危険な地に、敢えて向かっていく人々ってことで。イラクの日本人人質事件ってありましたね。「自己責任」って言葉を流行らせた、あれです。国家が、国民の勝手にしたことなど知らないと、犯罪者でもない、むしろ被害者の、善意の人々を切り捨てる方便とした言葉に、数多くの人間がうなずき、人質となった人々の家族に、ひどいバッシングをしたのでした。絶望的なそうした多数者が確かにいます。もうあれから1年半以上経つのですけれど、状況は何も変わっていません。むしろ、9/11に起こったことを考えると、悪くなっているのかもしれません。小泉純一郎の言う「小さい政府」とかね、笑ってしまう。それは、つまり弱い人を切り捨てる政府なんですよ。

この件については、高橋源一郎さんの書いた文章が秀逸だったのを覚えています。ネット上で読めるオリジナルはもうないようです。でも「高橋源一郎の人生相談」で検索すると、見つけられるかも…。