ディック&ジェーン 復讐は最高!

私は見逃しているのですが、一部で評判の高かった「ギャラクシー・クエスト」のディーン・パリゾットが監督、ジム・キャリーが主演した「ディック&ジェーン 復讐は最高!」を見てきました。

ジム・キャリーは、オーバー・アクションなのにどこかさびしげな芸風が更に増してきたように思います。個人的には好意的に見ているのですけれど、「マスク」のジム・キャリ−が好きな人には物足りないのかもしれません。私個人は「エターナル・サンシャイン」「トゥルーマン・ショー」あたりのジム・キャリーが贔屓です。あ、でも「ふたりの男とひとりの女」も好き。

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ところで、この作品、露骨にエンロン問題とかを題材にしているのですね(映画の最後のテロップで、協力企業名としてエンロンとかワールドコムが出てくるのは笑います)。業績好調という偽りの情報で株価を吊り上げ、裏で代表取締役本人がストック・オプションで得た株式を売りぬいて多額の利益を確保、しかし一方で経営は破綻しており、給与の一部を株式で支払われていた社員たちは、突然の倒産になすすべもない…という筋書きは、まさしくエンロンの事件そのものです。ただ、どうしても政府との癒着とか、トップの悪事だけが取りざたされるこの問題で、ジム・キャリーは、倒産後ホワイトカラーのエリートを自負していた人々の末路のほうに関心を寄せ、演じて見せるわけです。正直、演出自体はまったりしていて、それほど面白いとは思えないのですが、郊外の高所得者層の住む家で、家財道具を売り払いながら、電気代も払えないくらい落ちぶれていく様子は、とても「好景気」をうたわれているアメリカとは思えない光景で、まるで日本のよう、とか思ってしまうのでした。

とはいえ、実際は、ヴェンダースが「ランド・オブ・プレンティ」で示していたようにアメリカは、ひどい階級社会にはなっていて、失業者数も多く、先進諸国中、貧困層の割合がトップの国なんですけれどね。ただ、ハリウッド映画では、そうした状況はなかなか描かれなかった、というだけです。そういえば、先日、アメリカでパラサイト・シングルが増加しているという記事を目にしました。そこにも失業者問題が絡んでいます。市場絶対主義と回帰願望。かなり安易ですが、この二つの結びつきは、今日のアメリカ像として、たやすく納得してしまいかねないものです。

以下、致命的なネタばれです。

危うい、といえば、この映画、最終的には、金を持ち逃げした社長から金を奪い返し、給与を株で支払われていた元社員たちへの救済年金としてそれが遣われる、というオチがつくのですが、その過程において、食うに困ったジム・キャリーとその妻は、二人で強盗家業で生きていくのですね。それは、生活をしのぐため、というよりは、ホワイトカラーとしての豊かな生活を維持するための強盗三昧で、はっきり言って、ろくでもないのですが、映画の中ではそれは不問に付されます。どこかしら、被害者側も倫理観が欠落している。そして、粉飾された企業だけではなく、粉飾された「アメリカの生活」をもスタンダードとする姿勢を、崩そうとしないのです。

もっとも、それは、意図的に、アイロニーとしてそうであるのかもしれません。映画のラスト、ジュム・キャリーの元同僚は、好条件で「エンロン」に再就職を果たしているのでした。では、ジム・キャリーはどうやって生活しているのか?結局、彼の再就職は描かれていません。もしかしたら、強盗家業のプロフェッショナルになっていたのかもしれません。最後には、どこかよくわからない隙間に落ちていく、というのが、正しく、ジム・キャリーの狙う、アメリカ人像なのかも知れません(好意的に見れば)。