輪廻

風邪をひくのは得意です。昔と比べれば健康になりましたが、ともあれ何かと風邪をひきます。

清水崇監督の「輪廻」を見ました。観光地のホテルで、自分の息子と娘を含め11名の命を奪い自殺した大学教授…35年前に起こったその大量殺人事件の死者たちが、輪廻転生し、再び惨劇の場に立つ、という話です。

オーディションに明け暮れる無名の女優の卵、優香は、その惨劇を題材とした椎名桔平が監督する映画の主人公に大抜擢されます。しかし、それをきっかけに、優香の周りに少女の亡霊や、様々な亡霊が現れ始めます。一方で香里奈演じる女子大生も、時を同じくして、惨劇が起こったホテルの夢を繰り返し見るようになります。悪夢の理由を解き明かそうとする香里奈は、実際に存在するとわかったホテルへと向かいます。一方で優香は、再現されたホテルで撮影を開始するのでした。

以下、致命的なネタばれです。

この映画は、誰が誰の生まれ変わりか、というのがひとつのキーになっています。「呪怨」同様、不可逆的なのろいの連鎖(打ち破りようの無い負の力の連鎖)を好む清水監督は、現在の人生がどうであるか、などということはすべて切断して、生まれ変わりであるというだけで、過去の惨劇から解放されない、その惨劇を再度繰り返させられる悲惨な人々。彼らは、それまでの人生など言わんばかりに、唐突に日常生活に終止符を打たれて亡霊と化していきます。その理不尽さは、亡霊というよりも、かまれただけで死にいたり、亡者としてさまようことになるゾンビに近いものがあります。

白昼の、寂れた商店街を、亡霊と化した輪廻者たちがふらふらとさまよい来るシーンなどが良かったのですけれど、そのあっけらかんとした亡霊の存在形態は、ホラー映画史に対する清水監督のある種の自覚を感じさせるものでもありました。亡霊は、この世界の影に息づくのではなく、といって生々しくそこにいるのでもなく、そこにあり、かつあやふやである。これを言い換えると、恐怖は、心理に根ざすのでも、実際に存在している心霊現象に基づくのでもなく、フィルムにその本質において根付いているということなのです。

あと、8mmフィルムに記録された風景、再現としての映画の撮影現場、実際に惨劇が起こったホテルの現場が、まるで地続きであるかのように連鎖し、特にスタジオの中のホテルのセットと、廃墟のホテルと、惨劇が起こったときの記憶の中のホテルは、主人公の優香にとって完全に行き来可能な場所になっている、というあたりが、この映画における清水監督の狙いの一つだと思います。モーフィング技術の多用も、この世界のあやふやさへの意識だと言えなくもありません。

誰が誰の生まれ変わりか、というのも、重要なポイントになっている映画です。そのなかで、事件のたった一人の生き残りである、三條美紀さんの存在も面白いですね。三條さんといえば、私にとっては山猫令嬢です(笑)。